はじめに。

部屋を見渡してみると、
案外、いろいろなものが揃っている。
着る服があり、食べるものがあり、
雨風をしのげる場所がある。
蛇口をひねれば水が出て、
夜になれば、安心して眠ることもできる。
ところが、人は不思議なもので、
持っているものより、
持っていないものの方がよく見える。
もう少し収入があれば。
もう少しいい車に乗れたら。
もう少し立派な生活ができたら。
そう考えているうちに、
いまの生活が貧しく思えてくる。
この講義では、
足るを知るという考え方について、
述べていく。
比べると、足りなくなる。

現代は昔よりも、他人の暮らしがよく見える。
SNSを開けば、知らない人の旅行や食事、
仕事、家、カラダまで目に入ってくる。
眺めているだけなら面白い。
けれど、いつの間にか、
それが自分の生活を測る物差しになる。
上を見れば、きりがない。
収入が増えれば、
もっと稼ぐ人が見える。
いいものを買えば、
さらにいいものが見えてくる。
比較には、終点がないのである。
足りないのではなく、比べることで、
足りなく見えていることも多い。
自分の暮らしを見る。

足るを知るというと、
欲を捨てることのように聞こえる。
けれど、何も欲しがらず、
現状に甘んじるという話ではない。
何があれば十分なのか。
何にはお金を使いたいのか。
どんな時間を大切にしたいのか。
そこが分かれば、
他人の暮らしをそのまま欲しがらずに済む。
欲しいものを減らすというより、
欲しいものを選べるようになる。
足るを知るとは、自分なりの
「これで十分」を持つことなのだと思う。
余った力を、大切なものへ。

不思議なことに、生活の中に
「これで十分だ」と思える部分が増えると、
少し余裕が生まれる。
見栄のために使っていたお金。
比較に使っていた時間。
焦ることに使っていた気力。
それらを、
もっと大切なものへ回せるようになる。
家族と食事をする。
本を読む。
体を動かす。
仕事を少し丁寧にする。
どれも派手ではない。
けれど、こういうものが、
暮らしの土台をつくっている。
足るを知ると、
人生から欲が消えるわけではない。
ただ、本当に欲しいものが明確になる。
すでにあるものを眺めながら、
それでも欲しいものだけを選んでいく。
そのくらいが、ちょうどいいのかもしれない。
それでは、次回講義にて。🖐️

